名古屋高等裁判所 昭和55年(ネ)344号 判決 1983年3月31日
控訴人
破産者中谷盛一破産管財人
大塩量明
被控訴人
三井信託銀行株式会社
右代表者
野路道夫
右訴訟代理人
野上三男
右訴訟代理人
近藤堯夫
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一当裁判所は控訴人の本訴請求はその理由がなく失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は次につけ加えるほか原判決の理由と同一であるからここにこれを引用する。
1 原判決書一〇枚目表六行目中「ともに」から同裏四行目中「認められる。」までを次のように改める。
「<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、右の認定に反する証拠はない。
(一) 共済組合名古屋支部による本件融資の斡旋は、数年後に退職を控えた所属組合員が退職後に備え、住宅を取得するに必要な資金の融資を目的として、組合員に対する福祉厚生事業の一環として行われていたもので、前示共済組合支部による組合員に対する斡旋は前示共済組合支部と被控訴人との間の基本契約に定めるところに従つて行われ、融資を受ける者は、右基本契約の内容を了知し、これを前提として、被控訴人との間に銀行取引契約及び金銭消費貸借契約を締結するもので、右基本契約中、融資金の支払は原則として退職金をもつて充当する旨約定されていることから、破産者の場合、その弁済期を退職後退職手当金支給の手続に要する期間を見込み、昭和五七年四月三〇日と約定されていたこと
(二) 組合員は、本件融資を受けるに際し基本契約中の約定に従い関係書類として、金銭消費貸借契約証書(乙第一〇号証)銀行取引約定書(乙第一一号証)とともに、国鉄を名宛人とする退職手当金銀行振込依頼書(乙第八号証)、被控訴人を名宛人とする依頼書(乙第九号証)を共済組合支部に提出し、国鉄宛ての依頼書には「支給される退職手当金は私名義の普通預金口座(住宅資金口)に振り込みできるよう依頼します。」と記載され、銀行宛ての依頼書には「国鉄を退職するに当り、私へ支給される退職金その他の受領については貴店を振込銀行として指定致します。貴店に振込まれる退職金の処理については別途私の指図通りお取り運び下さい。」と記載され、右関係書類中、国鉄宛ての依頼書は、共済組合支部が保管し、被控訴銀行名古屋支店との間の基本契約中の規定に従い、融資を受けた者が退職した際、右依頼書を退職手当金の支給者である国鉄の関係部局に回付し、国鉄は右依頼書に基づき、退職手当金を被控訴銀行名古屋支店借受人名義の普通預金口座に振込むことによりその支払をなし、被控訴人は、右預金から借受金残額の弁済を受けることによつて決済することが予定されていたこと
(三) 国鉄(名古屋鉄道管理局)は、共済組合名古屋支部と被控訴人との間の本件基本契約の内容を熟知し、被控訴人による本件融資が退職金を引き当てとして行われ、退職後退職者から共済組合名古屋支部を介し、被控訴人銀行を振込先に指定してなされる払込依頼は、本件基本契約中の約定に基づくものであることを了承していたこと
以上の事実が認められる。」
2 同一〇枚目裏一〇行目中「以上」の下に「争いのない事実及び」を、同一一行目中「をする際、」の下に「本件基本契約中の約定に基づき、」を加え、同一一枚目表二行目中「約し」を「合意し」に、同四行目中「その後右振込指定に基き」を「右の合意に基づき払込依頼の手続きを受けることにより国鉄から」に、同七行目中「得ない」を「又は変更することができない」に改め、同一〇行目中「発生したもの」の下に「であつて、他方破産者からの前示貸付金の弁済は右の振込指定による同人名義の預金口座に入金されることを前提とするものであるから、単なる預金債務とは実質的に異なるもの」を、同九行目中「右振込指定」の下に「の合意」を加える。
二控訴人は、被控訴人において昭和五四年一二月二八日本件預金債務による貸金債権との相殺権を放棄した旨主張するけれども<証拠>によつてはいまだ右の事実を認めることができないし他に認めるに足る証拠はない。
三したがつて控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は失当であるからこれを棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして主文のとおり判決する。
(舘忠彦 名越昭彦 木原幹郎)